ネコの病気

予防も治療も難しい猫伝染性腹膜炎(FIP) ~猫の病気・けが症状別対処法~

2017年1月30日

 

以前解説した『猫エイズ』や『猫白血病ウイルス感染症』と共に、治療が困難なネコの難治性三大疾病に位置づけられている病気として、

『猫伝染性腹膜炎』があります。

この病気は、まだまだ詳細について解明されていないことが多く、有効な予防や治療方法が確立されていません。

また、診断も容易ではないという非常に厄介な病気です。

 

生後半年~3歳の幼い猫と10歳以上の高齢の猫が発症することが多く、比較的雑種よりも純血種の猫のほうが発症しやすい傾向にあります。

発症してしまうと完治は難しくほとんどが数ヵ月~1年半ほどで死亡してしまいます。

 

では、この命に関わる危険な病気、『猫伝染性腹膜炎』とは具体的にどういった病気なのか、解説していきます。

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)とは

猫コロナウイルスに感染することが原因で発症します。

 

猫コロナウイルスは、感染した猫の唾液・鼻水・尿・糞便から排出され、鼻や口を通って他の猫の体内へ侵入し気管や腸で増殖します。

なかでも、糞便中に含まれるウイルスによる感染が大半を占めています。

というのも、このウイルスは基本的に体外では不安定で室温では数分~数時間で感染力を失いますが、糞便中では3~7週間ほど生存することができるためです。

 

猫コロナウイルスには、猫腸コロナウイルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の2つの型があります。

猫腸コロナウイルス(FECV)は、猫が集まっている場所には必ず存在するといってもいいほど蔓延しています。

ですが、このウイルスは病原性が低く、感染したとしても腸炎を引き起こすことで軽度の下痢や軟便になる程度で、ほとんどの場合は目立った症状が出ません。

 

一方、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は、猫腸コロナウイルス(FECV)が突然変異により発展したもので、猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症させます。

こうしたケースは、猫腸コロナウイルス(FECV)に感染した猫のうち10%にも満たないものの、突然変異が起きる原因についてはまだ明確に分かっていません。

猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の猫から猫への感染は確認されていないため、猫腸コロナウイルス(FECV)の感染を防ぐことが重要になってきます。

 

症状

ウエットタイプドライタイプの2つのタイプに分けられます。

 

どちらのタイプにも共通する症状としては以下のようなものがあり、徐々に衰弱していきます。

  • 熱が出る
  • 元気・食欲がなくなる
  • 下痢をする
  • 嘔吐する
  • 貧血を起こす(耳や鼻が白い)
  • 脱水症状を起こす
  • 体重が減少する
  • 皮膚や粘膜が黄色くなる(黄疸/オウダン)

 

ウエットタイプ / 滲出(シンシュツ)型

  • 腹膜炎により滲出液(タンパク含有量の多いアメ色の液体)がお腹に溜まり(腹水)、腹部が膨れあがってブヨブヨになる
  • 胸膜炎により滲出液が胸に溜まり(胸水)、肺が圧迫され呼吸困難に陥る

 

ドライタイプ / 非滲出型

  • 様々な臓器に硬いしこり(肉芽腫/ニクゲシュ)ができる
  • 腎臓や肝臓の機能障害を起こす
  • 脳や脊髄などの中枢神経系の炎症から、麻痺(マヒ)や痙攣(ケイレン)、行動異常などの神経症状が現れる
  • 眼圧が上がったり、眼球が白く濁ってきてブドウ膜炎を発症したり、失明したりする

 

場合によっては、両方の症状を併発することもあれば、最初はドライタイプの症状だったにも関わらず徐々にウエットタイプの症状が現れてくることもあります。

 

診断

臨床症状と血液検査などの様々な検査から総合的に診断しますが、現状、確定的な診断をすることは難しい病気です。

主な検査としては、以下のものが挙げられます。

 

◆抗体検査

血液中の猫コロナウイルスの抗体を調べる検査

結果が陽性であっても猫コロナウイルスへの感染が疑われるというだけで、猫腸コロナウイルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)を区別することはできません。

猫腸コロナウイルス(FECV)が蔓延していることもあり、健康な猫でも半数は陽性になります。

陽性の結果が出た場合には、検査を繰り返し行い慎重に判断することが必要です。

 

◆PCRによる遺伝子検査

腹水、胸水から猫コロナウイルスを検出する

猫腸コロナウイルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)を区別できるため、腹水、胸水を採取できるウエットタイプの場合には有効だが、ドライタイプの場合には診断が難しくなります。

 

◆組織学的検査

手術で一部摘出した病変を検査する

診断の精度は最も高いですが、全身麻酔が必要なため弱っている猫には負担が大きい検査になります。

この検査により猫伝染性腹膜炎が確定的になったとしても、現状有効な治療法もないので、リスクを負ってまでこの検査を希望する飼い主さんはほとんどいません。

 

その他、レントゲンやエコーなどの検査も行いますが、決め手になる確定的な診断に行きつかないまま、病状が進行していくことが多いです。

 

治療

ウイルス自体を排除する根本的な治療法はありません。

 

症状を和らげ少しでも進行を遅らせるために、以下のような対症療法を主体に行います。

  • 免疫反応を抑制するためのステロイド剤の投与
  • ウイルスの活性化を防ぎ、猫の免疫力を高めるためのインターフェロンの投与
  • 二次感染を防ぐための抗生物質の投与
  • 呼吸の障害や腎臓の圧迫がある場合には、定期的にお腹や胸にたまった水を抜く
  • 輸液や点滴

 

こういった治療は、完治させることはできませんが、多少の延命効果が期待できる場合もあります。

ただし、黄疸や貧血、神経症状が出るほど症状が進行してしまうと、こうした治療も難しくなります。

 

予防

欧米では猫コロナウイルスに対するワクチンが使用されることもありますが、このワクチンは有効性に疑問があり、日本では販売されていません。

そのため、以下のことを心がけることが重要になってきます。

 

◆完全な室内飼い

ウイルスに感染した猫と接触する機会をなくすことが、一番の予防になります。

 

◆ストレスのない快適な生活環境を整える

猫伝染性腹膜炎の発症には、ストレスが関係していると考えられています。         

 

◆多頭飼育では発症率が高まるため、以下のことを徹底する

  • 新たに猫を飼う場合には、ウイルス検査をしてから他の猫と一緒にさせる
  • アルコールなどの一般的な消毒薬で十分に効果があるので、食器やトイレなど生活環境を清潔に保つ
  • 感染している猫がいる場合には、同居している他の猫に感染しないよう室内で隔離する
  • 「部屋の数以上の猫は飼わない」「5匹以上は飼わない」を多頭飼育の目安にする

 

猫伝染性腹膜炎は、発症してしまうとできることが限られてしまいます。

まずは感染を防ぐことを第一に、感染してしまっていれば発症しないことを第一に考え、そのために飼い主としてできることを考え、取り組んでいきましょう。

 

 

 

 

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