猫にとって、最も危険で厄介な感染症の一つといえるのが、『猫汎白血球減少症』です。
別名、『猫伝染性腸炎』や『猫パルボウイルス感染症』ということもあります。
ワクチン接種しておらず免疫がない猫は、ほぼ100%の確率で感染するとも言われています。
また、免疫力や体力のない幼い猫が死亡する確率は、75~90%にも達します。
特に3~5ヵ月の子猫が発症しやすく、発症後1日で死亡してしまうこともあります。
この年齢の猫を飼っている場合には、より注意が必要です。
では、この危険性の高い『猫汎白血球減少症』とはどういった感染症なのか、詳しく解説していきます。
猫汎白血球減少症とは
自然界に生息するウイルスの中でも極めて小さいウイルス『猫パルボウイルス』に感染することで発症する感染症です。
主に、感染している猫との接触や、排泄物、嘔吐物に存在する猫パルボウイルスが口に入ることで感染(経口感染)します。
猫パルボウイルスは、非常に生命力が強く安定したウイルスです。
体外に出てからも通常の環境で3年間は生存し、室温以下であれば1年以上感染力を保ち、外気温が30℃以上の炎天下でも数ヶ月以上生存していると考えられています。
自然界でこれほど長い期間感染力を持ち続けるウイルスは、他にはありません。
このため、感染した猫と直接接触していなくても、感染した猫が触ったケージや食器、ブラシ、飼い主の衣服などを経由して感染する可能性もあります。
飼い主が、外出した時にウイルスを靴の裏などにつけて帰ってきて、間接的に室内で飼っている猫に感染することもあります。
「室内で1匹しか飼っていないから安心」とはいきません。
猫パルボウイルスは、一般的な消毒薬であるアルコール、クレゾール、逆性石鹸などを使っても効果がなく、60℃で1時間加熱しても死滅させられません。
グルタルアルデヒド系消毒薬、塩素系消毒薬が効果的ですが、家庭であれば塩素系漂白剤を薄めることで代用できます。
猫に猫パルボウイルスがあるように、犬にも犬パルボウイルスがあります。
猫パルボウイルスとは別物ですが、猫パルボウイルスは遺伝的に犬パルボウイルスの起源とみられています。
猫パルボウイルスが犬や人間に感染することはありませんが、逆に犬パルボウイルスが猫に感染した事例が過去にはあったということで、念のため、注意が必要です。
犬は1歳未満で発症することが多いですが、猫は年齢に関係なく発症するリスクがあります。
症状
感染してしまうと、2~10日前後の潜伏期をへてから発症します。
発症してからは、まず喉のリンパ節でウイルスが増殖します。
その後、ウイルスは血液中に入って、細胞分裂のさかんな腸や骨髄などの臓器に移り、細胞を破壊します。
胎子や新生子の場合、脳や心臓にも侵入することがあります。
成猫は無症状や軽症ですむことが多いですが、まれに急性腸炎や白血球の減少が起きます。
子猫の場合には急性腸炎になり、具体的には以下のような症状が出てきます。
- 元気、食欲がなくなる
- 40度前後の熱が出る
- 水を飲まなくなる
- 犬座姿勢で、じっとうずくまって動かなくなる
- 嘔吐する
最初は1日5回〜6回ぐらいの頻度だが、病状が進むに従って嘔吐の回数がさらに増える
黄緑色の胆汁の色をした液体を吐く
- 下痢、血便をする
発症してから1日以内に下痢が始まる
5日目ぐらいにはトマトジュースのようなさらさらした水状の血便(水溶性粘血便)が出る
- 脱水症状を起こす
- 白血球が減少し、抵抗力が低下する
- 細菌の二次感染による敗血症を起こす
妊娠している猫が感染した場合には、流産、死産、胎子死、脳に異常のある子猫が生まれる危険があります。
胎子や新生子が感染した場合は、脳や脊髄といった中枢神経や胸腺が障害を受け、歩き方がおかしくなる運動失調や震えなどの神経症状が出ることもあります。
診断
猫汎白血球減少症に感染しているかの診断には、主に以下の検査が行われます。
- 血液採取による抗体検査
血清(けっせい)や血漿(けっしょう)を検査します。 - 糞便による抗原検査
犬パルボウイルス検出用の検査キットを使用するので、犬に対する検査よりも精度が低い傾向にあります。
そのため、実際は陽性だとしても検査の結果が陰性となることもあります。
最終的には、血液検査による白血球の数値チェック、ワクチン接種の有無、症状などを相対的にみて、獣医師が判断することになります。
治療
特効薬はないため、症状を和らげる対症療法がとられます。
具体的な処置としては、以下の通りです。
- 嘔吐や下痢による脱水症状を防ぐための輸液
- 抗ウイルスの免疫を高めるインターフェロン投与
- 白血球の減少に対する輸血
- 免疫低下による敗血症を防ぐための抗生剤
伝染力の強い感染症なので、動物病院へ連れていく前に、まず電話で「ワクチンを接種していないこと」、「嘔吐や下痢がひどく、猫汎白血球減少症の可能性があるかもしれないこと」を伝え、獣医師に相談しましょう。
動物病院側としても、来院している他の猫への感染を防ぐ必要があります。
そのため、感染した猫の飼い主さんには、来院時間を指定したり、診察まで車内で待機してもらうなどの対策をとることがあります。
また、他の猫からは隔離された入院治療となることも多いです。
猫がウイルスと戦っている間、飼い主さんは、以下のことを徹底しましょう。
- 同居している他の猫に感染しないよう、感染した猫を隔離します。
- 隔離した部屋の床やゲージ、食器などは、徹底的に消毒します。
- トイレは、ペットシーツや新聞紙など、そのまま廃棄できる簡易的なものにさせます。
- 人間を介しても感染は広がるので、感染した猫を触ったり、排泄物を触ったりした後は、よく手を洗います。
- 同居している他の猫がワクチン接種していなければ、すぐにワクチン接種をします。
- ワクチンの効果が出てくるのに2週間はかかるので、その間に感染しないように注意が必要です。
数日~1週間が治療の大きな山場ですが、感染の程度や個体差によって、完治には早ければ10日〜数週間、長ければ1ヵ月ほどかかります。
回復した猫は免疫ができるので再発はしませんが、回復してから数ヵ月は、排泄物から猫パルボウイルスが排出されます。
引き続きトイレの消毒や、多頭飼いの場合は隔離の徹底が必要です。
予防
飼っている猫が出産した場合には、産まれた子猫に初乳(出産後24時間以内の母乳)を十分に飲ませ、母猫のもつ免疫を受け取ることが大切です。
その免疫が、様々なウイルスから子猫の身を守ってくれます。
ですが、母猫から受け取った免疫は永久的なものではなく、しばらくすると失われてしまいます。
そうなると、ワクチン接種をする必要があります。
猫汎白血球減少症に対するワクチンは、猫用のワクチンとして最も古くからあります。
現在、猫カリシウイルス感染症や猫ウイルス性鼻気管炎と同じく、一般的な三種混合ワクチンに含まれています。
子猫を飼い始めたら、早い段階で動物病院に連れていき、まずは健康診断を受けましょう。
その際、ワクチン接種をする時期や回数について獣医師に相談し、適切にワクチン接種を行いましょう。
そして、このワクチンも永久に効果を発揮するものではありません。
成猫になっても、年に1度のワクチン接種はかかさず受けましょう。
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