人間の風邪とよく似た症状に、猫もなることがあります。
いわゆる『猫風邪』や『猫インフルエンザ』と言われるものです。
そのほとんどは、以下の感染症によるものです。
- 猫カリシウイルス感染症
- 猫ウイルス性鼻気管炎 (猫ヘルペスウイルス感染症ともいう)
- 猫クラミジア感染症
これらの感染症は、基本的に似たような症状(鼻水、くしゃみ、目やになど)が出るので判別がつきにくいうえに、同時に複数のウイルスに感染している(混合感染)こともよくあります。
そのことを念頭におきつつ、これらの感染症の特徴、症状、治療方法、予防方法をみていきましょう。
猫カリシウイルス感染症
カリシウイルスの特徴
カリシウイルスは、鼻水やよだれの中に存在しており、くしゃみなどによる飛沫感染、空気感染、接触感染をします。
感染しやすいのは、乾燥している冬場です。
感染してしまうと、3~5日ほどの潜伏期を経てから発症します。
この潜伏期間には症状が出ないため感染しているとは気づきにくく、他の猫に感染を広げてしまうことがあります。
多くの場合は、発症しても2週間程度で回復します。
一度感染すると猫の体内に免疫ができるため、再発することはほとんどありません。
しかし、完治してもウイルスが猫の体内から完全に消えることはなく、8~9割が保菌状態(キャリア)になります。
保菌状態の猫からは数ヵ月から数年にわたって持続的にウイルスが出ていて、ウイルスは猫の体外に出てからも短くても10日は生きていられるので、その間に他の猫に感染させてしまいます(持続感染)。
授乳期や授乳後まもない免疫力が十分でない子猫や、免疫力を弱めてしまう猫エイズウイルスや猫白血病ウイルスといった病気にも同時にかかっている場合は、特に重症になりやすいです。
カリシウイルスは外部からの刺激に強いです。そのため、普通の洗剤やアルコールで消毒しようとしても効き目がないので、塩素系漂白剤を使って消毒する必要があります。
猫カリシウイルス感染症の症状
猫カリシウイルス感染症には、いろいろな型(ウイルス株)が存在していて、その型によって症状も変わってきます。
猫ウイルス性鼻気管炎や猫クラミジア感染症と大きく異なる特徴としては、口の中に炎症が出やすい点です。
引用:ひだまり動物病院
鼻水、くしゃみ、目やにの症状も出ますが、それら以外の主な症状は以下の通りです。
- 唇や舌などに、口内炎、潰瘍、水泡ができる
- 口の中の痛みで、食欲がなくなる
- よだれが出る
- 熱が出る
- 肺炎を引き起こし、命を落とすことがある
最近では、さらに病原性が強く、全身症状を引き起こす強毒全身性の猫カリシウイルス感染症を発症するケースが出てきています。
通常の猫カリシウイルス感染症では早期に適切な処置をしていれば命に関わることはほとんどありませんが、
強毒全身性の場合には成猫のほうがより重症になる傾向にあり、約67%が命を落としています。
猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス感染症)
ヘルペスウイルスの特徴
ヘルペスウイルスも、鼻水やよだれの中に存在しており、くしゃみなどによる飛沫感染、空気感染、接触感染をします。
秋の終わりから冬にかけて、春の寒暖の激しい時期、出産時期に感染しやすいです。
感染してしまうと、2~6日ほどの潜伏期を経てから発症します。
多くの場合は、発症してから1週間ほどで回復します。
一度感染すると、症状が治まってもウイルスは神経細胞内に潜伏していて、ストレスや出産など免疫力が低下した時に再発してしまいます(潜伏感染)。
離乳後、母猫が疲れやストレスから発症し、母乳を飲むことで譲り受けていた免疫がなくなる6〜12週齢の子猫に感染するケースが多いです。
ヘルペスウイルスは、カリシウイルスと違って外部刺激にそれほど強くなく、体外に出ると1日ほどで死んでしまいます。
猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス感染症)の症状
猫ウイルス性鼻気管炎は、目に炎症を伴い、結膜炎から進行して角膜炎や角膜潰瘍を引き起こすのが特徴です。
鼻水、くしゃみ、目やにの症状も出ますが、それら以外の主な症状は以下の通りです。
- 涙が出る
- 目が腫れている
- 40度以上の高熱が出る
- 下痢をする
- 食欲がなくなる
- 脱水症状を起こす
- 肺炎を引き起こし、命を落とすことがある
- 妊娠中の猫は、流産することがある
猫クラミジア感染症
ネコクラミジア(クラミドフィラ フェリス)の特徴
ネコクラミジア(クラミドフィラ フェリス)は、細菌とウイルスの中間に位置づけられる病原体です。
目やにや涙などに接触することで感染し、1週間ほどの潜伏期を経てから発症します。
ウイルス性の結膜炎より治るのに時間がかかる傾向にあり、完治するまでに2~6週間もかかります。
一般的な三種混合ワクチンを接種している猫の結膜炎が長引く場合には、猫クラミジア感染症に感染した可能性が高いです。
ごく稀に人間にも感染し、結膜炎を発症することがあります。
猫クラミジア感染症の症状
猫クラミジア感染症は、最初に片目に粘着性の目やにを伴う結膜炎の症状が出て、その後もう片方の目にも症状が出てくるのが特徴です。
鼻水、くしゃみ、目やにの症状も出ますが、それら以外の主な症状は以下の通りです。
- 涙が出る
- 目が腫れている
- 肺炎を引き起こし、命を落とす可能性もあります
猫風邪の治療方法
猫カリシウイルス感染症/猫ウイルス性鼻気管炎
カリシウイルスもヘルペスウイルスも、特効薬はないため、症状を和らげる対症療法がとられます。
動物病院では、抗炎症剤、抗生物質、インターフェロンなどの抗ウイルス剤、栄養剤の投与などの内科的治療が行われます。
ネコが回復するまでの間、飼い主さんは以下のことに気をつけましょう。
- 猫の回復力や免疫力が大切なので、栄養のあるものを食べさせ、体力をつけさせる
- 脱水症状を起こさないよう水分をとらせる
- 暖かい場所で安静にする
- 同居している他の猫がいる場合は、感染しないように感染した猫を隔離する。隔離した部屋の床やゲージ、食器、トイレなどは、徹底的に消毒する。人間を介しても感染は広がるので、感染した猫を触ったり、排泄物を触ったりした後は、よく手を洗う。
- 同居している他の猫がワクチンを接種していなければ、すぐにワクチン接種をする。ワクチンは効果が出るまでに2週間はかかるので、その間に感染してしまわないように注意する。
猫クラミジア感染症
一般的な抗生物質は効果がないので、テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系の抗生物質の投与をします。
症状が治まったように見えても、途中で薬はやめず、獣医師の指示通り最後まで投与しましょう。
2~3週間は継続的に投与しないと、完全にネコクラミジアを消滅できず、再発したり、キャリア化したりする場合があります。
猫風邪の予防方法
猫風邪は野外で感染する可能性が高いです。
病気にかかるリスクをなくすためには完全な室内飼いを徹底しましょう。
また、これらの感染症はワクチンが開発されていて、予防することができる病気です。
ワクチン接種をしていても感染することはありますが、予防接種をしていれば軽症ですむことが多いです。
人間でも「予防接種を受けたのにインフルエンザにかかった」といいうことがありますよね。その場合でも、重症にならずにすんでいるケースが多いです。
猫カリシウイルス感染症と猫ウイルス性鼻気管炎は、一般的な三種混合ワクチンに含まれているので、年に1度、継続的に必ず接種しましょう。
猫クラミジア感染症もワクチンはありますが、室内飼いであれば、ワクチン接種の必要性は低いです。
猫を複数飼っている場合、小さな子供がいる場合、外に出すことがある場合などは、獣医師と相談し、必要であれば接種すると良いでしょう。
また一方で、完全室内飼いであれば予防接種をしなくてもいいのかというと、そうではありません。
外でこのウイルスに感染している野良猫などに接触した飼い主が家で飼っている猫に感染させてしまったり、動物病院にワクチンを接種していない(あるいは保菌状態の)猫がいて感染したりと、思わぬルートから愛猫に感染させてしまうことがあります。そのため予防接種は必要です。
愛する猫たちが感染症にかかるリスクを減らすためにも、まず治療より予防を心がけましょう。
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